臨時号 1998年06月18日(木)

 以下の文章は、6月17日のdairyに掲載した文章ですが、news and analysis にしてもおかしくない内容ですので、ここにも掲載します。16日や特に15日の diary と一緒に読んでいただければ幸甚です。このところ、休暇や出張が続いていてこのコーナーの文章をゆっくり書いていられないものですから。
 「little to do but worry」(15日のウォール・ストリート・ジャーナル)だったアメリカが95年の8月以来初めて、「"The New York Federal Reserve Bank is operating in the exchange markets on behalf of U.S. monetary authorities," a U.S. Treasury spokesman said.」と公に認める形で、外国為替市場に介入した。株式で見ると、水曜日一日でのその効果は日本ではなく(日経平均は0.03%の低下)アジア各地で出ていて、主なところでは Hong Kong(Hang Seng 8004.35 + 6.35%)、India(Bombay Sensex 3400.95 + 7.59%)、Indonesia(JSX Index 419.442 + 4.99%)、Malaysia(KLSE Composite 450.88 + 3.45% )、Singapore(STII 1107.70 + 5.60%)、S. Korea(Korea Composite 303.81 + 8.50%)、Thailand (SET 272.94 + 6.02%)などとなっている。下げたのはフィリピンなどごく一部。

 円高への転換は、日本にとってよりもアジアの各地で歓迎されたことになる。なぜなら、円高にしたところで日本の抱える経済問題の「解決」はほど遠いのに対して、アジア各地の経済にとって円高は各国通貨一段安懸念の後退など直ちに恩恵があるため。ニューヨークや欧州の株価が上昇したのも、「アジアの安定は世界経済の安定」という図式が描けるからだ。ということは、今後日本が再び世界における「culprit」(被告)と言われないようにするための時間は、極めて限られたことになる。円のレベルと世界の株価の水準が直結してしまったその結果は、日本の一つ一つの行いが世界の株価水準を決めてしまう形になるからだ。アジアや世界の株が再び下げるような事態になれば、日本という国の「政策遂行能力」に対する信任が根底から揺さぶられることになる。その結果は、今までよりは悪質な円安、株安になる可能性が強い。
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 松永蔵相は、介入の直後に英語に翻訳された声明文では(世界に発した声明ですから、英語で見ます)、

 "Recognizing that restructuring and revitalization of the Japanese economy are urgently needed, the government of Japan will take all necessary steps to restore its banking system to health, to achieve domestic demand-led growth, and to open and deregulate its markets," Mr. Matsunaga said.
 と述べている。ナイス、そして beautiful。しかし問題が一つある。世界が「ねずみの時間」で動いているのに、日本はどう見ても「象の時間」でしか動かない、動けないということだ。ついさっき読んだウォール・ストリート・ジャーナルには次のように書いてあった。
 How have the nation's leaders responded? Politicians plan to take off much of the next month to prepare for a July 12 election -- one that will decide if the ruling Liberal Democratic Party can win a majority in the all-but-powerless upper house of parliament, but not much else. And Finance Ministry officials are jockeying for position in a scheduled personnel rotation.
 政治空白を生む参議院選挙と、霞ヶ関の人事異動。少なくとも国会と霞ヶ関ではしばらく「象の時間」は続きそうだ。とすれば、もうこれはトップ(政策運営の最高責任者である首相)が機敏な動きを見せて、世界に「日本もねずみの時間」で動いてます、と証明するしかない。懸念はここにある。橋本首相は、それが分かっているのだろうか。選挙が始まれば、自民党では首相交代論は後退する。だから、橋本首相その人が目覚める以外にないのだが.....。あの人の性格は一朝一夕には変わりそうもない。

 日本が円相場の是正でアメリカ初め諸外国の力を借りたと言うことは、松永蔵相が言う日本経済の再構築・再活性化のための具体的措置(金融部門の健全化、内需主導の成長、市場の開放と規制緩和)を目に見える形で早急にしなければならないことを意味する。さもなければ、外国為替市場では「動かない日本」を嫌気して、再び国内に投資機会のない円を売り、ドルなどを買う動きが強まるからである。

 多分、日本の政治家達の今回の協調介入に対する感想は、「そりゃそうだろう。アメリカも日本を見限れないだろう」といったものだろう。しかしこうした、「show of power」(力の誇示)は、百害あって一利なしである。そこには、慢心しかない。こういう記述もある。

  Government officials and economists around the world are increasingly worried that Japan's accumulated financial and economic problems are pushing it to the brink of a depression, one replete with deflation, bank runs and tremendous unemployment. But such concerns remain almost inaudible in Japan itself, where affluence and relative isolation from the global economy have long allowed its leaders to argue that things really aren't so bad.
 どう見ても、まるで日本の組織のチャンピオンのように、日本の政治は「内向き」である。政治家の大部分は、冗談ではなく「冠婚葬祭」出席に忙しい日々を送っている。選挙が接近すればなおさらだ。「冠婚葬祭」に忙しい人間の目が、「世界」に向くわけがないし斬新な発想を持つとも思えない。だから私は正直、肉親以外の冠婚葬祭への政治家の出席禁止を法律にすべきだと思う。あまりにも時間を取られ過ぎている。国民も国民だ、と思う。あの政治家は自分の家の「冠婚葬祭」を大事にしてくれたからとか、目先の利益誘導に協力したからと選ぶか、そうでなければ「無関心」になる。ワールドカップは67%の人が見たのに、衆議院選挙の投票率は50%を割った。

 今回の協調介入が永続的な効果を外国為替市場に及ぼすと考えるには、そうでない場合よりも想像力を必要とする。「日本政府が予想外に機敏な措置をとり....」「アメリカ経済に陰りが見えてきて....」「介入しても、日本の外貨準備があまり減らずに...」「ムーディーも格付け引き下げを見送り...」などなど。選挙と霞ヶ関の人事異動で、「今までにもう日本はこれだけやりましたから、その効果を待って...」というスタンスが日本政府から出てくるのを想像するのは、極めて容易である。

 と考えていくと、世界が円相場の水準を保持するために支払う税金は巨額に上りそうだ。サマーズは、そのコストを軽減するために来る。さて、どんな話し合いがもたれるか。そして、政治家連中や霞ヶ関は聞く耳を持っているのかどうか。



                 ycaster@gol.com