INTERNET EDITION

第1333号 1997年01月20日(月)

what happened last week

 今週は予定の多い週ですが、簡単に先週末の市場の動きを追っておきましょう。

  1. 昨年11月の米貿易収支の赤字は「96億ドル程度への増加」との予想に反して、84億ドルの赤字にとどまった。これは、10月の赤字80億1000万ドル(改訂)よりは若干の増加。昨年1−11月の米貿易赤字は、1028億9000万ドルで、これは前年同期の1050億6000万ドルを下回っている。
  2. 米12月のFED発表の鉱工業生産は、季節調整済みで0.8%増加した。暖冬で電力発電が例年より少なかったため、「これが例年通りだったらもっと増加していた」との見方が強い。

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 この二つのニュースを手がかりに、ニューヨークではドルと株が急騰。ドルは、対マルクで1994年6月17日以来の1.6190マルクを付け、対スイスでも同年6月13日以来の1.3998フランを記録。ドルは対円でも上昇し、117円台の半ばまで行きましたが、ドルの上げ幅は対欧州通貨で大きく、この結果円は対欧州通貨では急騰して、円の対マルク相場は、今朝の段階で1マルク=72.50円前後になっている。その意味では、先週末の外国為替市場は、日本のマスコミが騒ぐほどには「円安」ではなく、「ドルの全面高」が特徴だったと言える。

 為替に関する発言では、ルービン米財務長官が

  「ドル高は、アメリカの国益にかなう。インフレを抑制し、金利を引き下げる」

 と発言した。同長官が、「強いドルは国益」と語ったのは、先週だけで実に3回目。一方、ドイツの Zeitler連銀理事は、

  「最近のドル高・マルク安は、米国経済の現状に関する市場の見方を反映している」

 とマルク安を是認して、事実上市場トレンドを追認した。

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 株は再び欧州とニューヨークで急騰。欧州では、あとで取り上げるものの、ドイツの株がDAXDeutsche aktienindex)で見て史上初めて3000の大台に乗って、引けは10.75ポイント高の3006.87。同指数は、1993年10月に2000の大台に乗った後、3年とちょっとで3000に届いた。ドイツ以外でも、欧州各地の株式市場で株価は急騰。

 ニューヨークの株も経済の強さを好感して、ダウで67.73ドル上昇して、引値は6833.10ドルと、史上初めて6800ドルに乗せた。6700ドル台に乗せてからわずか一週間。ただし、ニューヨークの債券は鉱工業生産が強い数字になったために地合は弱かったものの、ヘッジファンドの2−5年債の買い戻しもあって、ほぼ保合。市場の関心は、今週火曜日のグリーンスパンFED議長の議会証言に向いている。

Greenspan to testify on the state of economy

 そこで、今週の一番のハイライトであるグリーンスパン議長の議会証言についてです。上院の予算委員会で米東部時間の21日午前10時、日本時間の22時午前零時から証言しますが、注目点は以下の二点です。

  1. 「米国経済の現状」に関して、どのような判断を下すか。その中で、既に先週末の段階で強まった「利上げ観測」についてどのような表現を使うか、または言及しないか
  2. 12月に行った株価に対する警告にもかかわらず、even more exuberantになっている株価に関して、もう一度警告を行うかどうか

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 仮に「利上げ」を強くにじませながら、「株価に対する警告」を行った場合には、市場に対する影響は強いものになると思われます。利上げ観測の強まりは、17日発行のJP MORGANの「Global Data Watch」でも見られます。同社はこの中で、2月4−5に開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)では、「少なくとも引き締めの可能性についての議題がもっとも優先的に議論される」と予想し、「次いで、3月のFOMCで引き締めが決定される可能性が強い」と述べている。

 同社は、先週金曜日に発表になった数字を踏まえて、「アメリカの昨年第四・四半期のGDP成長率は4%の水準を上回り、この結果、昨年下半期の成長率は上半期の3.25%を下回らないものになろう」と述べている。アメリカ経済の強さに関しては、「序々に鈍化する」と予想していたグリーンスパン議長も驚いているでしょうから、その辺の感触が同議長の議会証言からどう出てくるかが注目です。

 ただし、市場の一部にある「2月初めのFOMCで直ちに利上げ」という見方はやや性急な結論だと思われます。FEDの昨年からのスタンスは、経済が強くてもインフレが発生しない現状から、「なるべく利上げをしないで、インフレ状況を監視する」というスタンスですから、今回も「監視体制の強化」は決めるでしょうが、モルガンを言っているとおり、直ちに利上げすることはないと思われます。昨年一年間の米消費者物価上昇率(コア)は、2.6%と、1994年と同じ低い伸びで、これは1965年以来の最低だった。

 また、「インフレを押さえるドル高の進行」「失業率の5.2〜5.4%レンジでの安定」などが、利上げを急がない理由になると思われる。

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 これに対して、「利下げ」の可能性のあるのは、定例連銀理事会を今週開くドイツ連銀です。 Zeitler連銀理事は先週末

  「ドイツでインフレが発生する危険性は全くない。金利が上昇する可能性は全くない」

 と述べている。これだけマルク安が進んでも、ドイツの物価は上昇の気配を示しておらず、これが「今週の理事会で、ドイツ連銀はレポ・レートの引き下げを行ってくるのではないか」との見方に繋がっている。先週発表されたドイツ連銀の月報は、「ドイツのインフレ率は、今後2年間2%を上回ることはないだろう」と、インフレ見通しに関して、極めて楽観的な見方を示していた。

 ただしドイツは、現在のように希望通りにマルクが下げている時ではなく、マルク安が止まったときに利下げをてくる可能性が高いと見ます。マルク安は、それ自身がドイツ経済の刺激剤になっているため。ドイツのレポ・レートは、昨年の8月末からずっと3%に据え置かれている。

 アメリカ金利に上昇の可能性があり、ドイツの金利に引き下げの可能性がある中で、「ドルは今週も引き続き上値追いを続けるだろう」(月曜日のウォール・ストリート・ジャーナル)というのが、一般的な見方です。なおJP MORGANは、株価次第では日本にも利下げの可能性ありと予想している。

German shares hit new high as D-mark drops

 日本と同じように経済の構造改革に悩み、景気は弱く、失業率も史上最高にあり、通貨が軟調に推移しているドイツですが、一つ明確に日本と違う点は、株価。一方は新値に進み、一方は英語で言うnose-dive

 ドイツ株の上昇には、以下の理由があるとされています。

  1. マルクが対ドルで31ヶ月ぶりの安値に落ちる中で、ドイツの輸出業者の業績に回復の兆しが強まっている
  2. これに伴う、ドイツの企業業績全体に対する強い楽観論
  3. ドイツ企業のリストラに対する楽観論

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 つまりここでは、日本でとっくに「逆効果」ともされている「通貨安」が、株式市場の活況を支えている構図が伺える。もともと、自国通貨高の修正という面では日本が95年に先行した。ドイツは今必死でcatch upている最中。マルク安は若い、という意味でドイツ経済にはかなりのカンフル剤になっていると思われる。

 また明確に違うのは、「政治」のスタンス。こんなことを言うと失礼かもしれませんが、今の日本の政治家の中で、世界経済の現状、世界経済が向かっている方向に関して明確な知識やビジョンを持っている人は非常に少ない。しかし、ドイツではコールが先頭に立って経済の改革の方向を指し示している。こうした政治のスタンスは、マーケットの信頼感を醸成する上で非常に重要です。お金を投資するときには、投資先に何らかの信頼感がなといけない。今の日本は、マスコミは官僚や民間を、民間はマスコミと官僚を、官僚はマスコミと民間を警戒し、相互批判し、信頼していない印象が強い。これでは、「株にお金を置こう」などとは誰も思わないでしょう。どこかで「信頼感」を醸成することが、日本の市場に資金を戻す上で必要なことと思います。

 

numerous indicators

 グリーンスパン議会証言、ドイツ連銀理事会以外も今週は予定の多い週です。グリーンスパン以外にあちこちでしゃべる連銀理事がいっぱいいる。21日には、パリー・サンフランシスコ連銀総裁が午後の4時から金融に関する会議で講演しますし、パリー総裁は22日にも講演する。24日には、JordanMoskowMelzerHoenigがセントルイスで民間銀行首脳との会議に出席する。

 指標では、22日に住宅着工高、住宅許可件数(ともに12月)が出て、またベージュブックも発表(午後2時)される。23日は財政収支(12月)の発表がある。日本の指標で注目されるのは、22日の日本の12月の貿易収支。日本の貿易収支の黒字が増加に転じたら、考えようによっては今の円安は「ファンダメンタルズに沿わない動き」だと判断できるケースもある。

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 週末のニュースで興味を引いたのは、ルービン財務長官が財政均衡に関する憲法修正案に対して明確な「反対」を表明したこと。同長官は、

  「The proposed balanced budget amendment to the US
  constitution poses a serious threat to the country's
  economic health.

 と述べている。具体的にはこの憲法修正案は、財政政策の発動可能性を著しく制約し、「景気後退をリセッションに」「リセッションをより深刻なモノに」「最後に、リセッションをディプレッションに悪化させる」と警告。同憲法修正案は、財政赤字を憲法違反とするもので、今年再度議会に提出される見込みになっている。この憲法修正案に関しては、共和党連邦議員のほぼ全員、それに少数ながら投票結果を左右しかねない数の民主党議員が賛成している。クリントン政権は、この勢力図を変える努力を始めたことになる。

 財政赤字を憲法違反とする修正案は2年前に議会提出され、その際は下院を通過しながら、上院で一票差で破れていた。憲法修正には、連邦議会の三分の二の議員の賛成、州議会の四分の三の賛成が必要。昨年11月の議会選挙では、共和党は上院で2つ議席を伸ばし、一方下院では9議席を失っている。この結果、今年の同修正案を巡る投票もclose call(接戦)になると見られている。

 クリントン大統領は20日に二期目の就任式に臨むが、いずれにせよlame duckになるなかで、影響力をいかに維持するかに力を使わざるを得なくなるでしょう。クリントンの不思議(スキャンダルに強いという意味で)な指導力で進んできた株高、債券高も、政権が指導力を失うケースでは、シナリオを変えざるを得ない事態が出てくる可能性があります。

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have a nice week 》 

 よい天気の週末でした。日曜日には沼津まで行きましたが、素晴らしい天気で富士山が綺麗でした。風もなく、日中は汗ばむような天気だった。今日からはちょっと寒くなるようです。インフルエンザが蔓延している。お気をつけて。

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 昨日でしたか、ジャパン・タイムズを読んでいたら、去年一年間に日本を訪れた外国人の数は400万を突破し、425万人になったとありました。うち、341万人は日本を初めて訪れた人たち。前年に比べ、52万人、14%の増加。10年前に比べると、倍増だという。外国人旅行者の増加は、円安とアジアからの入国者増加が背景。

 一方、海外に行った日本人は1670万人。「出」「入」ともに史上最高だそうです。これは、95年に比べて140万人もの増加。5年連続の史上最高の更新。こちらは、「円安にもかかわらず」というべき。圧倒的な「出」超で、貿易外収支の赤字の源泉になっている。外国人一人が日本に入ってくるのに対して、4人の日本人が外に出ていっていることになる。

 今年の円安はちょっとペースが速い。しかし、自分の周りを見ても、あまり海外旅行が減っている感じはしない。旅行業者も、円安をそっくり転嫁することはしていないようです。

 そうそう。このニュースをインターネットでご覧になっている方に、一つプレゼント。今朝の朝日がペルーのゲリラとその活動に反対する勢力がインターネット上で火花を散らしているという記事を書いているのですが、ゲリラのホームページはここにあります。以前は英語がなかったのですが、今度見たら、朝日の記事の通り英語ページもある。

 それでは、皆様には良い一週間を。

           <ycaster@gol.com>