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 アメリカで、「俊敏な経営」(agile managementが話題に上っているそうだが、その言葉を象徴するような出来事に出会った。日本にあるレストランの話だが、レストラン自体が実はハワイに本店を置いている。多分これからの時代はこうした機敏な対応(マーケットへの)が必要になるのだろう。ちょっと印象に残ったので、記しておきたい。

 青山三丁目の交差点を少し広尾方向に行った右側に「Roy's」というレストランがある。ハワイでこのレストランを見かけた人は多いはず。日系人のロイ・山口さん経営のチェーン店。大きな店構え、オープン・キッチン、広いテーブル配置、グラスに立っている白い大きなナプキン、そして店に入ると右にある大きなバーカウンター....。青山らしい結構しゃれたレストランだ。しかも、たった1400円で、サラダ、メイン、デザート、そしてコーヒーが付くランチが食べられる。良く行っている。

 この「Roy's」が先日(確か96年10月2日の日)、このランチの内容を改善したとはいうものの、2500円に値上げした。たまたまその日もランチに行って知ったのだが、理由を尋ねたら「検討した結果、内容を改善した上で値段を決定しました」とのこと。「利益率を上げようとしたのか。このレストランもこの辺では地位を確立してきたし」とその時は思った。しかし、色々聞きました。「なぜ、なぜ」と。そして、続くかな....とも。

 数日後またその「Roy's」に行った。「2500円はちょっと高いな....」なんて考えながら。そしたら、なんと価格が前に戻っていた。1400円に。当然、「どうしたの....」と聞きました。2〜3人の人が説明してくれました。聞けば、値上げした価格はたった2日であきらめたそうです。「(値上げしたら店が)寂しくなった....」「お客さんにも色々言われまして.....」。「見事に失敗しました」という説明も。

 関心したのは、値上げするときは結構慎重に検討した筈なのに、たった二日で「顧客の評判が悪い」とみたら価格政策を戻した店の決断の速さ。これは、アメリカン・スタイルでしょう。次に思ったのは、高価格に対する強い消費者の抵抗。「Roy's」が値上げを図った理由の一つは「この地域では地位が確立した」「顧客も固まった」「ファッショナブルな青山だから、ちょっと値上げしても」というような判断があった筈だ。少なくとも店内の「値上げ派」はそう主張したはず。

 しかし、それは甘い判断だった。1400円という価格が、内容とマッチして顧客はこの店を支持していた。結構厳しいコスト・パフォーマンスを見ていたと言うことだ。

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 単純な敷衍は危険だ。しかしいくつかのポイントが浮かんでくる。

1.顧客の「高価格」に対する抵抗は極めて強いこと

2.コストに対するパフォーマンスの消費者の希望レベルは徐々に上がっていること

 

 これは、「ランチ」という比較的誰でも「コスト・パフォーマンス」を考える食事の世界だからこそ起きたことなのかも知れない。しかし、値段の高さに対する消費者の抵抗は相当なものだし、これは続くだろうと思う。モノやサービスを提供しているサイドが、よく念頭に置かねばならない点だろう。アメリカでは景気が良くなっても「高価格」に対する抵抗は強い。トウモロコシの値段は上がっても、コーン・フレークの値段は上がらなかった。いや、上げられなかった。インフレは遠い世界の話だ。

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 数日後、Roy'sの経営会社である「ソーホーズ」の代表取締役 月川 蘇豊 さんという方から手紙を頂いた。あの文章をそのままパソコンから店にファックスして送っておいたのだが、それに対する返事。

 「この度は、私どもが経営するレストラン、ロイズ青山 Bar & Grill に関するご意見をファックスして頂き誠に有り難うございます。お褒めの言葉や、厳しくもなるほどと思われるご指摘など、ご送信頂きましたことは大変感謝致しております。

 ロイズを大切に思って下さるゲストの貴重なご意見と大変有り難く思っていますし、心より感謝を致す次第です。さて今回の価格の見直しに関する私どもの考えをご説明させて頂きますと、

1.価格を元に戻して欲しいというお客様のご要望が非常に多かったこと

2.お客様のご支持が得られない店は在り得ないという当社の固いポリシー

 以上の2点が見直しの.......」

と続く。この手紙、9日付けで発送されている。私があれを書いたのが9日ですから、敏速です。しかも、なかなか気持ちの良いレター。 価格は経済の鼓動を伝えるモノだ。その価格が素早く動き出したことは、鼓動そのものが速くなってきた証拠かも知れない。

ycaster 96/10/14)


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