<金利ー後記(8月18日分)

放映日=96年8月18日(日)、テレビ東京朝9時〜、日経サテライト午後5時〜

ゲスト=野村証券金融市場部チーフストラテジストの水野温氏さん

 「みんな肩の力を抜けばいいと思うんですよ.....。日銀も、マスコミも、そして大蔵省、政治家も、マーケットも」

 春先からこの夏まで、日本の金融市場を駆けめぐった「利上げ観測」。しかし秋口の今、株式・債券・短期金融・為替・商品各市場関係者、そしてマスコミ関係者や当局者の間に、大きな疲労感を残しながら、この「利上げ観測」は急速に後退している。何がどうして、どうなったのか。あの騒ぎは何だったのか、という思いがするのは私だけではないでしょう。「利上げ観測」がこの間、繰り返し蒸し返されたことの日本のマーケットや日本経済に対するメリット、デメリットはどうだったのだろうか  ? どこに、どんな思い違いがあったんだろうか。

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 水野さんは、今の日本で金融市場関係者、債券市場関係者の間でもっとも注目されるアナリストの一人。役職はチーフストラテジストで社内ではその役回りなんでしょうが、我々のように他の会社の人間にして見れば、「彼が市場をどう見ているか」という視点で彼の書いたもの、発言を注目していますから、やはり「アナリスト」です。彼が中心となってまとめられ毎週金曜日に出る「グローバル投資アイデア」は、「少し長すぎる」という批判はあるにせよ、この手のものの中では日本で最もよく読まれているものの一つでしょう。

 水野さんは、私が知る範囲では今年の初めから「日本の金利は年末まで超低金利のまま推移する可能性が高い」と述べてきた。そして今は、「日銀が年内に利上げを決断できない場合、景気循環要因から来年6〜7月頃まで超低金利が持続する可能性が出てくる」と予測している。そうした見方をしている人間からすると、この騒ぎはどう見えたかという興味もありました。

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 水野さんは、春先からこれまで日本の市場を騒がせてきた「利上げ報道」について、「日銀の中にも色々な意見の人がいるが、マスコミは金利を上げたがっている人の意見に耳を傾けた」ために発生した、とまず指摘されました。(金利操作を)すべきか、すべきでないか、はいつでも中央銀行関係者の重大な関心事で、いつも色々な意見がある筈です。そもそも「0.5%への引き下げはデフレ回避の緊急避難だった」「0.5という超低金利を続ければ将来のインフレ懸念が心配」など、日銀の内部には強い利上げ先行論があった。その先行論が勢いを見せたのは、景気の足取りがしっかりし、株が上昇し、円が安くなったことです。

 しかしこの過程で、日銀の中に「戻さねばならない」「緊急避難を解除しなければならない」という一種の肩の力が見えていなかったか、と今でも思います。一連の大蔵批判が高まる中で、「日銀の独立性」とからめる意見まで飛び出しました。そして、マスコミのいつくかの社は、この空気を担当者やデスクが確信を深めた段階でそれぞれ記事にした。今年今まで「利上げ報道」をしていない主要マスコミは日経とNHKだけ、という状況。結果的にはその他の社の「利上げ報道」は、「単なる観測記事」「誤報」で終わっている。マスコミの記事で、「いつかは上がる」では特ダネにはなりません。発生日時と事実が両方合わねばならない。読売新聞は、7月14日の一面トップでは「月内0.5%の上げ」と打ち上げました。この2点が実現すれば、あの記事は間違いなく特ダネだった。当たりませんでしたが。

 ここで思い出すのは、「日本の金利は、既に世界の金利だ」という基本的な事実です。私もずっとそう主張してきたし、水野さんも同じ意見でした。実際問題として、日本が金利を上げたときの世界市場に対する影響を考えずには、日本の金利は動かせないし、むろんそれについて書けも、語れもしない。つまり、非常に広い視点を持っていないと、日本の金利の最終的な動向は読めないし、書けないと言うことです。多少マスコミ批判をさせていただくなら、取材対象を限定しすぎてはいなかったかというものです。日本の金利はある意味では、総裁が思っても必ずしも動かせないものになっている。「利上げ報道」をした日本のマスコミには、このグローバルな視点が欠けてはいなかったかという気がします。無論、「クラブ制度」など日本のマスコミが根元的に抱える問題も出てきているんでしょう。

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 市場も随分と振り回されました。残念ながら。これは「報道」を受け入れる環境が市場にもあったということです。水野さんは、市場の中では「利上げ報道は」特に株に対する打撃が大きかったとおっしゃっている。一つアメリカでもこれは言えるのは、市場は「記憶」を強く引きずっているということです。70年代どうだったか、80年代はどうか。90年代の初めは。具体的には、「この経済指標がこう出たときにはこう判断すべきだ」といった類のものです。それによって起こる市場の反応を英語では「KNEE-JERK REACTION」(膝反応)という。

 しかし忘れてはいけないのは、経済はいつも新しくなっているということです。しかも、現在は80年代の最後にベルリンの壁が落ちて市場経済のスパンが大きく広がり、またコンピューターに支援された生産、通信、情報処理が著しく進展し、一種の産業革命が進行している最中。だから「記憶」は間違った「KNEE-JERK REACTION」を引き起こす可能性が高い。それが政策サイドで出たら大変です。グリーンスパン議長の議会証言などを見ていると、今という時代をどう理解したらよいのか苦しんでいるのがよく分かる。「an opportunistic approach to disinflation」などという考え方はそこから出てきたのでしょう。無論これも同議長が言っているように「試論」です。一人の市場関係者として、市場サイドも「そうだったから」とか「彼がそう言ったから」とか「あの新聞がそう書いたから」という経験則に基づく「から」からの判断が少し多すぎたような気がします。そう、もっと「今何が起きているのか」を真摯に見る必要があったのではと言う気がします。

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 さて実際の金利の先行きです。水野さんは「景気循環要因から、来年6〜7月まで超低金利政策が続く可能性」を示唆しておられる。確かに景気の先行きには、一時の明るさはなっくなっています。新たな懸念材料も出てきている。0―157。私は個人的には騒ぎすぎだと思います。しかし、原因究明が進まず、有効な治療方法も見つからない現状では、個人消費に与える影響は大きいでしょう。GNPの5割以上は個人消費ですから。もう影響は出ている。百貨店の売上高の減少。無論食品部門の落ち込みが大きい。

 「金利を上げても日本の景気がしっかりしていて輸入が増えれば、世界経済に対する打撃はない」というのが利上げ正当化の一つの論拠でしたが、それが極めて怪しくなっている。アメリカのmeat industory(食肉産業)は輸出の3分の2は日本向け。「大打撃だ」とニューヨーク・タイムズに書いて有りました。水野さんの予測をちょっと補強するなら、私は株が2万円から十分上放れし、ドル・円が110円近くにあって、しかも景気の力強さが回復しなければ、利上げの環境そのものが整はないのではないか、と思っています。しかし、重要な点はそもそもインフレがないということ。

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 長くなりましたが、20日のFOMCと22日のドイツ連銀理事会について。結論からいうと、どちらも「変更なし」というのが水野さんの予想でした。変更の可能性はドイツ連銀の方が高い。しかし、水野さんは「マルクが急騰でもしない限り、(利下げの)期待感を今回も残すのではないか」と予想。

 最後になりましたが、今週の収録は国際色豊かだった。台湾テレビの女性記者、Josethine Juanさんが「日本における経済番組の作り方」をみせて欲しいと見学に来たため。なかなかの美人でしかも勉強熱心でした。槙アナウンサーは山形が夏休み(茨木でゴルフをしている)でピンチヒッター。PH二度目で本人は「緊張しました」といっていましたが、私から見れば結構落ち着いてきていた。

                          →Cyberdiary参照

                            (ycaster 96/08/18)



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