<収録後記(7月14日)Cyberchat>

放映=7月14日(日曜日)テレビ東京朝9時から、日経サテライトニュース午後5時

ゲスト=松井 道夫・松井証券

 正直言って、「松井証券」なる会社をそれほど知っていたわけではありませんでした。聞いたことがある程度。ディレクターから「今度はこれをやろう」と言われて、直ちには「ポイント」をつかめなかった。しかし、少し話しを聞いて、「面白そうだ」と思いました。

 何よりも、数字が語っている。たった数年で営業収支率を54.4から103.9(96年3月期)に引き上げ、経常利益も赤から大幅な黒にした実績。無論、営業収支率の103.9は世界的基準から見れば威張れないものの、日本の証券会社(東証正会員)の中ではトップクラス。業界不振が言われている中で、その業績の伸びは群を抜いている。従業員は150人、店舗は4店舗での営業。従来の「日本の証券会社」というイメージからはかけ離れている。しかし、実績は上がっている。

 この会社を率いるのが松井 道夫社長。まだ43歳。8年前に日本郵船の定期船部門から松井家の婿養子に入り、去年6月から社長に。「証券業界の革命児」と呼ばれているらしいが、会ってまず思うのは、「足が地についている」という印象。しゃべり方も落ち着いているし、一呼吸考えてから喋っている。雑誌の記事によれば、新規顧客にレターを書くのが毎朝の仕事というのも、着実な仕事ぶりを伺わせる。

 その松井社長は、「海運業界から移ってきたときは、ショックでした」と言う。「生き馬の目を抜く」と言われていたのに.....。「それは、社内競争、出世競争の話でした」と。「視点に顧客が抜けていた」とも。「証券マンてなんだ...」が発想の原点だったようです。海運はご存じの通り、世界的な価格競争を展開した業界。“そともの”として入ってきたのが、原点回帰の思考に役立っているとお見受けした。

 そう。我々のイメージにある通り、証券マンとは従来は「まず自分を売り込む」(松井社長の言葉を借りれば)ことが必要でした。飛び込み営業から始まり、顧客との関係確立、銘柄推奨……。しかし、松井社長は、「それは無駄なことだと思った」と言います。むろん、従業員が少なく、店舗も少ない会社だからこその発想なんでしょうが、なにせコストがかかる。もっと効率の良い、小さくても全国展開できる方法はと考えたのが、「広告営業」。新聞に年に4〜5回広告を打つ。潜在顧客に訴えたいことを載せ、そして客を待つ。しかし、最初から成功したわけではない。何回かやるうちに、顧客の心が掴めるようになったという。それだけでは駄目なので、「信用取引の最低保証金を200万円に、注文も1000株から」とした。前者については、大手証券は普通5000万円である。既発の割引債を一般の人に売ったり、口座管理手数料をゼロにしたり。

 無論、既存業界からは反発をくらった。しかし、こうした努力のおかげで、管理口座数はそうした努力をする前の3000から今は1万数千にまで増加したという。そして、何よりも業績も向上。

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 考えると、日本の証券市場も情けない存在に成り下がったものである。先週(7月12日までの週)など出来高は3000億円を割る日が続出した。ニューヨーク市場の出来高の6分の1だそうだ。アメリカとGNPで2:1(実際はそれ以上ですが)の日本の株式市場が、出来高で6:1ではあまりにも寂しい。何が足りないのか。もちろん銀行ほどではないにせよ、証券業界にも“負の遺産”がある。しかし、業界がそれなりきに目新しいものを提供していけば1200兆円もある個人資産は動くはずだ。それとも、業界も動けない環境があるのだろうか。

 松井証券の松井社長の発言を聞いていて、「この会社は確かに何かをしようとしている」と思いました。そう「何かしている」ことが客の関心を呼び、いつか市場を活性化する。一番いけないのは、文句を言っていて何もしないことです。「動く」から、人も魅力を感じて寄ってくるし、市場も「動く」から資金も入ってくる。今はそれがない。

 松井証券の戦術は、少店舗・少従業員の会社ならではのものかもしれません。従業員が沢山いる会社は、それ故に銘柄を推奨し、何回も行って「買ってもらう」ことが今でも必要になっているのかも知れません。しかし、これでは主客が転倒している。ゴルフ会員権業界もそうですが、何回も何回も電話を受けるのは、受ける側としても迷惑です。有用な情報が入っていれば別ですが、だいたいは同じ事の繰り返し。「押しつけ」はやめて欲しい。

 結局「自己責任」をどう考えるかという問題に帰着すると思います。経済に、そして市場、銘柄に一家言ある人には、推奨は必要ない。必要な情報を提供する必要はありますが、最終的判断(買うか、売るか)は投資家自身にしてもらえば良い。松井証券は、「自己責任」感覚を持っている顧客を相手にしていると言える。

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 お客さんに何回も足を運び、親しくなり、銘柄も推奨し....という従来型の営業に全く魅力がないわけではありません。どろくささや、人間くささがある。しかし、これは同時に色々な問題の温床にもなってきました。当初はうまく行っていても、どこかで歯車が狂うときもある。

 為替の世界では、「収録後記(6月30日)」でも取り上げた通り、電子ブローキングが急速に台頭しています。ボイスブローカーの衰退。証券でも将来同じようなことが起きると想います。良い悪いは別にして。「広告営業」は本社と顧客の直接的なつながりを意味します。中間省略はかならず起こる。コストが低減されますから、企業経営は楽になる。松井証券の戦略の行き着く先は、恐らくサイバーの世界でしょう。既に松井社長は、インターネットへの取り組みを表明している。そしてその中で、雇用環境も大きく変わるはずです。

 大きくないことがメリットにもなる世界。閉塞感の強い日本の証券業界、いや経済の中にあって、松井証券のような会社にはもっともっと出てきて欲しいものである。

   (ycaster 96/07/14)



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