<アキア=ネットワークの「匠」――Cyberchat

放映日=96年10月22日、テレビ東京朝9時「東京マーケット・フォーカス」
ゲスト=飯塚 克美・アキア株式会社代表取締役社長

☆収録後の控え室で、ゲストの飯塚さんと私、それに中山ちゃんが同一世代であることを確認しながらの会話の中で、飯塚氏曰く
 「人生一度ですから......」 

☆収録後の麻雀のあと、赤坂のカウンターバーで酒を飲みながら株式担当の下地と、
 「ああいう人生もいいよな.....」

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 別に羨ましがっているだけではありません。多分我々には分からないご苦労もあったでしょう。しかし、デル・コンピューターの日本法人社長の椅子(ストック・オプションを入れて年間6000万円)をなげうって自分で始めた会社が、一年もたたないうちに日本でも一番コンピューターが売れる秋葉原の量販店・ラオックスで月間売上高トップ(7月)になるという光栄。昔の製造業では考えられませんよね。工場を立ち上げ、販路を確保し、宣伝し....。でも、アキアの従業員は今でも60人だそうです。飯塚社長いわく、「60人にもなりました」と。そして今年の売上高目標は、240億円。

 昔だったらとうてい考えられない新しい「メーカー」の出現の秘密は、「ファブレス」という言葉にあります。つまり「加工なし」。自らは工場をもたず、最適メーカーに最適生産をさせて、組立もやってもらう。そして、自社としては「企画」「販売」に特化する。むろんここでは、パソコンという一つ一つの部品が「パーツ化」(部品として共通仕様になっているもの)した特殊な業態であることが一つの鍵です。APTIVAというIBMの製品を買う。しかし、中身はアメリカ製品などほとんどない。台湾製だったり。別にIBMだけではない。富士通のパソコン用パーツ購入戦略はNHKテレビの「特集」で大きく取り上げられもした。

 だから、どの部品メーカーがどの品質で、どの値段で何を作っているかを敏速、正確に把握し、それをいち早く製品として「企画」し、組み立て、「販売」すれば、素早い立ち上げは可能です。既にパーツはある。アキアはこれに成功したのですが、その成功はやはり特筆すべきことだと思います。だって、アキアの会社設立は去年の9月18日なんです。まだ一年。

 むろん「運もあった」と飯塚社長は言います。すべてを「Windows95」に合わせたこと。日本で
Windows95が発売されたのは忘れもしない去年の11月23日ですが、アキアはすべてそこに焦点を当てた。つまり、「3.1」は捨てていたのです。だから、今でも「3.1」の製品はない。 Windows95発売に伴うパソコン・ブームに乗せて、自社製品を売り出した。

 しかし、常識的に考えれば、わずか2〜3ヶ月前に出来た会社の製品を売場に置く、となれば、例えばラオックスの各階の売場主任だって考えますよね。売場は販売店にとって売上高の増減に一番影響し、だから一番割り振りを考えるところ。飯塚社長は、「結局のところ、うちの製品が良かったからなんです」とおっしゃる。多分そうでしょう。良くなかったら、熟練の売場主任の目も、オタクがいっぱいいる消費者の目もごまかせない。たとえ飯塚社長がラオックスと以前から関係があったとしても、です。飯塚さんは、「ターゲットはHIGH END、つまり高級機種でした」とおっしゃる。HIGH ENDで名声を得、それを販売増の起爆剤にする。日本は、「高い機種から売れる」という世界でも珍しいパソコン市場で、アメリカのメーカーが力を入れる理由はそこにあるらしいのですが、アキアの戦略は正しかったことになる。

 アキアの経営理念は

   Small but Big
   「People are Equal
   「顧客第一主義」

  「Small but Big」はよくわかる。増えて社員は60人。特に今後も増やすつもりはないと。規模が全く念頭にない新しい会社。Smallです。では、どのくらいBigか。ラオックスで月間売上高一位というのは、やはりBigでしょう。将来は、アメリカ逆上陸を狙いたいと。「People are Equal」というのはネットワーク社会の特徴です。少し前に私のインターネット上のCyberdiaryの中で、「ネットワーク・リーダーシップ」という本を紹介し、ネットワーク社会の特徴は「poly-agent system」(複雑多主体システム)であるとの主張を引用しましたが、実際のところネットワーク社会では、上下の関係ではなく、横の関係が非常に重要です。飯塚さんが製品を仕上げるにしても、彼は別に子会社に命令しているわけではない。対等な関係で、「取引」しているだけでしょう。恐らくアキアの社内の人間関係もかなりフラットだろうと思います。上下の関係がrigidで窮屈なものだったら、敏速な意志決定など出来ない。

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 「成功の秘密は何か」と聞いたら、帰ってきた答えは「リレーションシップを大事にしたから」と。「誰とでもフランクに付き合ってきましたから、向こうもそれを信頼してくれた....」とも。そりゃそうだ。「リレーションシップ」や「ネットワーク」を壊す人が、「ファブレス企業」を起こし、成功させられるわけがない。「ファブレス」だからこそ、製造担当会社との関係が重要で、その「関係」は多分に「人間関係」にあるのでしょう。「彼なら信頼できる」と。でもこれは、我々のごく普通のビジネス関係、社会関係にも繋がりますよね。彼は、「アメリカにはいっぱい仲間がいますから...」とも。ネットワーク社会はまた、「人間関係」の社会でもあります。poly-agentな。

 「ア・キ・ア」の最初の「ア」は「アジア」の「ア」だそうです。最後の「ア」は「アメリカ」の「ア」。それでは、「キ」は。飯塚 克美のイニシャル。友達には、「ケーアイ」「ケーアイ」と呼ばれているそうです。「アキア」の飯塚社長は、アジアとアメリカを結ぶ「KI」さんというわけです。

 一つ辛辣な質問をしました。「急速に伸びたという事は、急速に衰退すると言うことか」と。そうでしょう。アメリカでもいっぱい例がある。パッカード・ベルもNECの傘下に入った。アップルもアップアップ。消えていったコンピューター・メーカーはいくらもある。外野としては、また投資家としては気になりますよね。むろん、飯塚社長もアメリカのパソコン業界の歴史には詳しい。飯塚社長はそうならないために具体的に

   「一つは、一度アキアの客になった人は、絶対離さない」
   「二つ目は、多様化だ」

 とおっしゃった。この二つ目が出てくるのに時間が少々かかったのですが、この点は私の
Cyberdiaryで詳しく。実は、パソコンのような製品は、私の身の回りの人間を見ていると分かるのですが、product loyaltyが低い。そこをつかんで離さないというのですから、高性能・低価格の維持への決意は強いと言うことでしょう。「多様化」については、先週の新聞に載っていた「マック互換機の製造」「液晶LCDの開発」を挙げた。マックは、「競争が少ない」のに目を付けたという。マックは、パソコンの中では確かに「Product loyalty」高い。今後の予定としては、アメリカへの逆上陸、3年後の株式店頭公開などを挙げられた。

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 我々日本人は、「モノ作り」というと「匠の技」を思い浮かべ、そこになにがしかの美学を感じる。アキアには工場はないわけだから、モノ作りの「匠の技」は契約先の企業は持っているかも知れないけれど、アキアにはない。しかし話を聞いていて、『この会社には、ネットワーク社会における新しい「匠の技」があるに違いない』と思いました。それがなかったら、poly-agentな今の社会において、これだけ短期間に成功できるわけはない。

 長くなりました。あと二つ。「別にファブレス企業を目指したわけではない。“効率”を目指したら、ファブレスになった」という言葉が印象的でした。そう、評論家やエコノミストは、あとで名前を付ける。しかし、実際には現実が先行している。既成概念にとらわれず、足下を見てみようと言うわけ。

 最後に、会った印象。よく焼けている。テレビでも私が白く見えたのだから、相当なものです。土曜日の収録もゴルフを終えて登場。でもひどくショックそうでした。この日は105も叩いたとか。普段は90台。そのショックで、番組の途中で頭が白くなられたのかも知れない。

 最後の最後に、ちょっとお漏らしになったのですが、デルの時のストック・オプションの価値は、現在では1億円になっているとか。ただし、現在は年収はそれをかなり下回ると。知恵と人脈の商売。
                                                  Good Luck

                                 (ycaster 96/09/22)



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